願い婚~幸せであるように~
精神的ストレスによる心因性記憶障害と診断された。

父は母から私の様子を聞かされ、二度と会わないで欲しいと泣かれて、自分の行動を反省した。養育費を送金することだけを許してもらったという。


「和花のことは一度も忘れたことはない。いつも笑顔でいてくれたらいいと願っていた」

「園本さんは、和花ちゃんとの写真をいつも持っているんだよ。この前、見せてもらったけど、和花ちゃんがとてもいい笑顔でね」

「今もお持ちですか? 見せていただいても?」


父は黒い手帳から一枚の写真を取り出して、幸樹さんに渡す。彼に顔を寄せて、私もその写真を見た。

五歳くらいの私がぬいぐるみを抱えた状態で、父に抱かれて笑顔でカメラを見ている。場所はテーマパークのようで、撮影したのは母だろう。「かわいいな」と幸樹さんが呟く。


「私は和花を幸せに出来なかったことをずっと悔やんでいた。でも、幸せを掴んだようだね」


父は弱々しい笑顔を見せて、幸樹さんを見つめた。


「幸樹くん。私が言うことではないかもしれないけど、和花を幸せにしてあげてください」

「もちろんです。必ず幸せにします」


力強い返事をした幸樹さんは、父へ写真を返した。父からの話を聞いてもなにも思い出せなかったが、そこに写っていたぬいぐるみは今でも実家にある。しばらく抱いて寝ていたし、年月を経て色褪せてはいるが、大切にしていたものだ。
< 129 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop