願い婚~幸せであるように~
もちろん父からもらったという記憶はない。でも、幸せだった頃の思い出のぬいぐるみだから、大事にしていたのかも。


「和花、疲れただろ?」

「うん、少し」


料亭をからタクシーに乗り、幸樹さんの肩に頭を預けて、ため息をつく。

父からの話を聞き終えたあと、四人で食事をしたが、気まずい空気が流れていた。お義父さんが気を使って、父にいろいろ話していた。

その中でもまた衝撃的な事実が出てきた。父の再婚相手は、十年前に亡くなっていると。子供はその時のひとりだけで、男ふたりで十年暮らしてきたという。

母も苦労していたが、父も苦労していたことを知り、複雑な気持ちになった。父の苦労は自分が種を蒔いた結果ではあるが、様々な思いが頭の中を廻っていた。

幸樹さんが私の頭を撫でる。彼の大きな手はいつも安心感を与えてくれる。


「いつかあのかわいい写真の和花みたいな、和花そっくりの娘が欲しいな」

「私は幸樹さんに似た子が欲しいです」

「うれしいことを言ってくれるね。子は授かり物だけど、今夜がんばってみる?」

「えっ、そういう意味で言ったんじゃ……」

「今一番かわいがりたいのは、和花だからね。とことん、かわいがらせてよ」


突然の甘い要求にしんみりしていた気持ちはどこかに飛んでいき、ドキドキとなぜかワクワクしてしまう。
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