願い婚~幸せであるように~
持っているだけだったフォークを動かし、ひと口分のムースを取って、口に入れる。口の中ですぐとろけるが、美味しい!

濃厚で美味しすぎる……。こんなに美味しいムースを食べたことがない。何個でも食べれそうなくらい美味しい。

パクパクと脇目も振らずに食べていると、幸樹さんが笑う。


「美味しい?」

「うん! ものすごく美味しい」

「和花。俺のも食べていいよ」

「えっ? ううん、幸樹さんも食べて! 一緒に味わいたいから」

「和花にあげたいのにな。でも、ありがとう」


幸樹さんは食べてと必死で訴える私をまた笑って、なぜかお礼を言った。自分の分を食べるだけなのだから、お礼を言う必要ないのに。

ムースを口に運ぶ彼をじっと見る。美味しいから食べてと勧めたけど、どうかな? 美味しくないと言われたら、どうしよう。

味覚は人それぞれだけど、同じものを食べて、同じように美味しいって思ってほしい。ひと口食べた彼はまたひと口入れる。美味しいのか美味しくないのか、表情が読み取れない。

幸樹さんの気持ちは短絡的に表情と結び付かない。意識して表に出さないようにしているのかもしれないが。

そんな彼がフォークを置いてから、私を見た。


「うん、ビターなんだね。美味しいね」
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