願い婚~幸せであるように~
中に入れない私の手をすみれちゃんが引っ張る。やっぱり恥ずかしくて、尻込みしてしまっていた。

大きなリボンをつけた私が中に入ると、「えっ?」と絶句した部長の声が耳に届く。やっぱり失敗だった?

そっと部長の顔を見ると、目が合った途端に「プッ!」と彼は吹き出した。


「あはは。さすがにこれは……すみれがやったんだろ? かわいいけど、恥ずかしいよね?」

「お、お母さん。見た? お兄ちゃんが爆笑したよ」

「う、うん。見たわよ」

「幸樹が声を出して、笑うなんて何年ぶりだ……」


大笑いする部長に呆然としたのは私だけではなく、茅島家の全員もだった。

部長はみんなの声を気にすることなく、私の前に来て、リボンをほどいた。その瞬間、固まっていた私は魔法がとけたみたいに動き出す。


「お誕生日おめでとうございます。お口に合うといいのですが」

「ありがとう。なにかな? 開けていい?」


渡した白い箱をテーブルに置いて、蓋を開けた。そこに入っているのは、アップルパイ。すみれちゃんにお菓子作りが好きと話したら、ぜひパイを作ってそれをプレゼントしてと言われた。

素人の手作りパイなんて、嫌がるのではないかと懸念したが、「絶対喜ぶから!」と押されて作った。
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