願い婚~幸せであるように~
紺色のスタンダードなパジャマを着る幸樹さんはまだ髪が濡れていた。その姿がかっこいいというかセクシーだから、直視出来なく、慌ててバスルームに入った。目を閉じて、深呼吸を繰り返す。

落ち着こう。

しかし、せっかく落ち着いた心臓はまたもや暴れだす。

バスルームのドアは曇りガラスで、人がいたら影で分かる。それよりも、ノックされたから分かりすぎだけれども。

「和花」と呼ぶのと同時にドアをコンコンと叩かれる。突然のことにビックリして、まだ泡のついている体を勢いよく湯船に沈めた。「和花?」と再度呼ばれる。

ガラスには幸樹さんらしき影が見えている。


「はい、なんですか?」

「和花のスマホが鳴っていたよ。ちらっと見たら、お母さんと表示されていたけど」

「あ、そうなんですね。出たら、かけ直します」

「うん。それと……」

「はい?」

「いや、何でもない。ゆっくり入って」


最後は少し慌てた声に聞こえた。彼の影が消えたのを確認してから、シャンプーするために出る。

ひとりではなく、誰かが同じ場所にいるのは落ち着かないような、落ち着くような……複雑な気持ちになる。慣れれば、落ち着くほうが多くなるのかな。

母からはただ『お疲れ様』と言われただけだった。他になにか用があるように思えたが、なにを遠慮してるのか早々と切られてしまう。
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