願い婚~幸せであるように~
「お母さんと話した?」

「はい。疲れただろうから、ゆっくり休んでと言われました」


そんなことで掛けてくるような母ではないと疑問に思うが、切られてしまってはなにも聞けなかった。


「じゃあ、言われたとおり休もうか」

「そうですね」


幸樹さんが差し出す手を握って、ソファから立ち上がる。ベッドルームには見るだけで恥ずかしくなるキングサイズのベッドがある。そのベッドはまだ誰も使っていない。

初夜って、つまりそういうことをするのよね?

どのタイミングで寝転がればいい?

ベッドですることを考えるのに、私はベッドではなくて斜め前に立つ幸樹さんの後ろ姿を見た。

彼の動きに合わせようとして。


「和花」

「あ、は、はい!」

「いや、もしかして緊張してる?」

「はい。もしかしてじゃなくて、かなりです」


いきなり振り返られて、私は後ろに跳び跳ねてしまった。そんな私の動きが予想外だったのか、彼は目を一瞬丸くさせたが、すぐに細めて笑った。

リビングからここまでの一分くらいの時間で緊張はピークに達した。

幸樹さんがまた私の手を握る。目の前の彼を見上げると、抱き締められた。私の心臓の音はきっと伝わっているだろう。

彼から伝わる体温はほどよく温かくて、落ち着く感じなのに全然落ち着かない。
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