願い婚~幸せであるように~
「顔をあげてくれるかな?」


穏やかな声の要求にゆっくりと上を向く。


「抱いてもいい?」

「えっ? あ、はい……」


わざわざ聞かれるとは思わなかった。初夜だからと覚悟はもちろんしている。確認されると戸惑うし、恥ずかしさが増す。

こういった経験が同じくらいの年齢の女性よりもはるかに少ないのが、狼狽える原因だと分かってはいる。

だから、彼の要求にはできる限りの応えたい。


「嘘だよ」

「えっ? なにが?」


覚悟が出来ている私に幸樹さんはおかしなことを言う。嘘とはなんのこと?

抱き締められていた腕の力が緩められる。幸樹さんは先にベッドへあがった。横向きに寝転んで、おいでと手招きする。

何が嘘なのか、どうするのが正解なのかと軽く混乱しながら私もベッドにあがった。だけど、同じように寝られなくて、幸樹さんの横に正座した。


「座っていたら、眠れないよ。ほら、横になって」


手を引かれるが、固まっていて動けない。彼は「和花」と焦れたような声で呼んで、体を起こした。それから、距離を縮めて唇を重ねた。

触れるだけの優しいキス。

お互いの前髪が触れあう距離で幸樹さんは言った。


「今夜は抱かないから、安心して眠って」


彼の言った嘘の意味が分かったけど、今度はなぜ?が脳内を埋める。夫婦になったのに抱かない?

どうして?
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