願い婚~幸せであるように~
シートベルトを外すと「和花」と体が彼の方へと引き寄せられる。不自然な体制で顔を向けた瞬間、唇にキスが落ちてきた。


「ちょっ、こんなところで!」

「行ってらっしゃい」

「……行ってきます……」


顔を赤くして抗議しても、爽やかに手を振られたら、怒れない。赤い顔のままで降りるしかなかった。

冷たい風が熱くなった顔を冷やしてくれて、会社に着いた時は平常の顔色に戻っていた。

月曜日の朝は朝礼がある。連絡事項を伝えるだけの簡単な朝礼ではあるが、一週間の始まりということで気分が引き締まる。

結婚式からふわふわしていた気持ちをおさえないと。


「あ、そうだ。最後に平原さん、前に出て」

「はい? 」

「皆さんに報告することあるでしょ?


ライラインテリアは五年前に設立されたまだ比較的新しい会社。なので、従業員も設立時から増えてはいるものの、50人と少なくて朝礼には社長も参加している。

社長は榊陽一郎(さかきよういちろう)といって、年齢は35才。

その榊社長に呼ばれた私は前に出る。前に出るのは、入社したときの挨拶以来かも。まさかこの場で報告するようになるとは……。


「私事ですが……一昨日結婚しました。仕事は平原姓のままで続けますので、これからもどうぞよろしくお願いします」
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