願い婚~幸せであるように~
朝の予告通り、私は残業を終えて夜七時過ぎに退社した。


「茅島様、おかえりなさいませ。ロビーでお客様がお待ちしております」

「お客様?」

「はい、平原様という男性の方です」


コンシェルジュデスクはエントランスから入ったところのホールの右側にある。少し先に行くと、壁があって左右に通路が分かれる。

右に行くとコンビニ、左に行くと共有ロビーになっている。ロビーにはセルフで入れられるドリンクがいろいろ揃っている。

ロビーの方に顔を向けるとひとりの男性が立ち上がって、手をあげた。その人はよく知っている人だ。


「淳平……」

「茅島様、お知り合いの方でよろしいでしょうか?」

「はい、私の従兄です」


マンションに出入りする人の名前や特徴などは報告書に入力されるようだ。何度か来る人は覚えるのだろう。


「和花、おかえり。いや、おかえりはおかしいな。お疲れ様」

「淳平こそ、お疲れ様。昨日はうちのお母さんも見送ってくれたようで、ありがとう」

「いや、うちの親を送るついでだったから。それより、これ。おばさんから預かった」

「ありがとう。あがって、コーヒーでも飲んでいって」


家族だけの結婚式を行ったが、私の方は母しかいないため、母の兄夫婦とその息子である淳平に出席してもらった。
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