願い婚~幸せであるように~
コンペ当日の朝、私は送るという幸樹さんを断って、電車で出勤した。

幸樹さんは「あとでね」と先に出ていった。家で今回のコンペの話は一切していない。贔屓されて選ばれたくはないし、彼も贔屓するつもりはない。

でも、別の会社に勤めていながらも本日午後のスケジュールは同じだ。緊張はするけれども、彼に会えるのはうれしいと不謹慎ながらも思ってしまう。


カヤシマ不動産に入り、中野課長と川中さんと共に受付に行く。すみれが真っ直ぐと背筋を伸ばして、「こんにちは。ライラインテリアの皆さま、いつもお世話になっております」と挨拶した。

もうひとりの受付業務をしている沢田さんは休憩中なのか不在。


「お世話になっています。住宅事業部の加藤さん……」

「はい、加藤から聞いています。十二階の会議室にお上がりください」

「はい、ありがとうございます」


すみれに目配せしてから、エレベーターへと三人で並んで歩く。私たちの背後に誰かが並んだ気配を感じたとき、「あれ?」と小さな驚きの声が耳に届いて、振り返った。


「やっぱり和花ちゃん。今日はなにかあるの?」

「あ、こんにちは。住宅事業部主催のコンペ参加で伺いました」

「コンペ? もしかして、和花ちゃんがプレゼンするの?」

「はい。未熟ながら挑戦させていただきます」
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