ママの手料理
航海が愚痴を零しながら、持っていたフライバンを勢い良くOASISの脳天に叩きつけた音が聞こえてきた。


(そう、俺らにはこいつという切り札が居る)



壱の中に存在する、いや、正確にはこの身体の主である仁は、現在全ての意識と感覚を壱に委ねて深い眠りの中に落ちてしまっている。


今朝、人格が交代して目覚めた壱は仁の机に向かって座っていて、その机の上には1枚の紙切れが置かれていた。


そこには、いつ人格が変わるか分からないから急いで書いたのか、



『壱へ

僕の身体を使わせてあげるんだから、絶対諦めないで。勝ってもらわないと困るよ?
もし僕が寝てる間に君が死んだら、僕はあの世でも君の事恨むからね。
まだ大也にも本当の事言えてないんだから、頼むよ。

仁』



という、走り書きが残されていた。


普通の仁なら、闘いや盗みの前には壱に対するメッセージはおろか、mirageを勇気づける言葉の1つも言わずに人格交代をする為、今回のメッセージを見て少し嬉しくなったのは事実だ。


しかし、大口叩きのくせして闘いや盗みの場では人格交代して逃げ、本番では何の役にも立たない彼からの何とも上から目線なメッセージに、殺意が湧いたのも事実だ。


けれど、この闘いでは何としてもmirageが優勢になり、勝たなければいけない。
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