ママの手料理
あの子の死に顔は恐怖に歪んでいた。


彼女は、最後に何を思っただろう。


お父さんかお母さんに見つかったと思って顔を上げたら、知らない男が自分を見下ろしていて。


何が起こっているのか理解出来ず恐怖の感情に支配されたまま、彼女は息絶えたのだ。


「いやー、あの時君を見つけられなかったのは誤算だったなぁ…。何せママンも含めて女3人も殺したんだから、任務は完了したと思ったんだよねぇ」


(…して)


後ろ手に縛られた自分の手が小刻みに震えているのが分かる。


「あの火事の時もそうだよ?ぜーったい逃げられない様に計算しつくして放火してあげたっていうのに、何故か君だけ逃げちゃったんだからね。そうでしょー?」


「…殺して!」


私が大声で叫んだ瞬間、ぺちゃくちゃと一方的に話し続ける彼の声が一瞬にして消えた。


「……もういいから、殺して…私を、殺してください」



こんな争いはもう嫌だ、疲れた。


私が今こうしている間も、mirageの皆は絵画を盗み、荒川次郎目掛けて闘い続けている事なんて分かっている。


頼んだのは私なのだから。


けれど、私だって子供ではない。


そもそも、最初の火事の一件で私が死んでいたらこんな事にはならなかったのだ。


全ての元凶は私だ。
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