ママの手料理
漆黒のマッシュルームヘアを揺らすその人の背は航海よりも遥かに低く、160センチもないのではないだろうか。


それなのに、そんな低身長の彼から流れ出すオーラは異様な程の強さの殺気で。


「…只者じゃなさそうですね。誰ですか?」


至って冷静に尋ねると。


「イプシロン」


初めて聞く片仮名の連語が返ってきた。


「イプ…?イプロシンって何でしょう、薬の名前ですか?」


(まあ名前なんてどうでもいいんです、早く倒してしまいましょう)


自覚する程の棒読みの質問を投げかけた後、航海は相手に一瞬の隙も与えずに相手の方に踏み込んだ。


それなのに。


「違う、イプシロン」


全く、動きが見えなかった。


瞬きをした時にはイプシロンの姿は目の前になく、


(え、…?)


攻撃目標を見失った航海が呆気に取られていると、


バァン………


真後ろから、発砲音が聞こえた。


「え、何!え!?無理俺のこと誰か撃った!?銃!?」


遠くから、ただ発砲音に怯えただけの大也の金切り声が聞こえてくるけれど。


「いっ、……」


右足の太ももから、生温かい液体が流れている感覚がする。


(撃たれた…)


くるりと後ろを向くと、そこには先程と同様、小首を傾げたままのイプシロンが立っていた。
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