ママの手料理
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遡ること数十分前。


「…私の事、殺したかったんですよね……ずっと生き延びてたけど、…もう、殺してください」


ポロポロ涙を流しながら、私は目の前の凶悪殺人犯に懇願していた。


「私、運が悪いんです……最初に私が死んでれば、こんな事には……」


今までぎゃははは、と笑っていた殺人犯は一転して黙りこくり、私をじっと見つめている。


「…だから、」


しゃくりあげながら、また言葉を紡ごうとすると。


「……違うなあ」


小さいけれど、低くて落ち着いた声が男の口から漏れた。


(え、…?)


驚いた私がゆっくりと顔を上げると。


「そんなに俺に殺して欲しいのー?ニューは一発で殺してくれるけど、俺はゆっくりじんわり殺す派だから痛いよー?」


先程聞こえた声は空耳だったのか、彼はまた笑顔でぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた。


「もう誰でもいいです、ほんとに…」


余りの恐怖に、心臓が抉られそうな痛みを覚える。


(伊織が私を殺すなら今は何をしているの?来るなら来て早く殺してよ!来ないなんて、私が希望を持つような事をしないで!)


誰も信じられない。



その時。


「やっぱり銃で殺す?それともナイフ?それとも首折り?何がいいかな、紫苑ちゃん好みの殺され方あったら教えてよー」
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