ママの手料理
(………やばい、)


もう、ほぼ何も考えられなくなっていた。


皆の手前、最後までいい顔をしていたい。


mirageとしてチームに貢献したいけれど、もう身体が言うことを聞かなくて。


紫苑ちゃんに駆け寄る湊の姿が、まるで陽炎のように揺れ動く。


本音を言えば、1番最初に彼女に駆け寄るのは俺でありたかったし、力が抜けてその場に座り込む琥珀の背中をさするのは壱ではなくて俺でありたかった。


(役に立ってないじゃん、俺……)


悔しくていたたまれなくて、俺は震える唇を噛み締めて俯いた。



どのくらいそうしていただろうか。


「…さん、大也さーん」


不意に航海の声が聞こえ、俺はゆっくりと顔を上げた。


西日が差し込む部屋が眩しくて頭がくらくらして、同時に感覚のなくなってきた左手が震える。


「そこにあるガムテープと縄、取って貰えますか?あと出来ればこっちを手伝って欲しいのですが」


口の中に込み上げてきたバナナを必死で胃の中に戻し、俺は笑った。


「分かった、そっち行くから」



そうして、ガムテープと縄を取りに行こうと1歩踏み出した時だった。


足元から突き刺すような激しい激痛が、俺の身体を襲った。


「ぁ……、」


心臓の鼓動がやけに早く、はっきりと聞こえる。


足が震えてもつれ、俺はその場に倒れ込んだ。
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