キミに、愛と思いやりを

「花蓮。なんで他の男と一緒だったの?」



眉を吊り上げながら静かな声で、淡々と話す彼。



「違う、違うよ」



あたしは、ふるふると首を横に振った。



「なんで僕の告白受け入れたんだよ」



「だから違うのっ!」



あたしは、彼の腕を両手で掴んで否定し続けた。



「僕が思ってること知って、それを内心面白がってたってこと?」



「だから違うってばっ!」



あたしがどんな風に言っても歩は、表情を変えない。



「ごめんなさい、ごめんなさい。でも違う! 歩、誤解だよ!」



涙が溢れて止まらなくなった。
こんなに冷たい目で見てくる歩は、初めて見た。


この人は、一体誰なんだろう。


君は、歩?
もちろん分かっている。そう、あたしがこの世で1番一緒になりたいと思っている人、歩。仙谷 歩だ。


でも、あたしの知っている歩じゃない。この人は、一体誰なんだろう。


歩は、花が咲くように笑う人だ。すごく、すごく穏やかな目をしている人。


この人は、すごく冷たい目。まるで、あたしを汚いものを見ているような、そんな目。


彼は、腕を掴んでいるあたしの手を振りほどいた。



「悪く思わないで。もう僕は花蓮を思う気持ちがないよ」



この言葉は、まるでナイフのようだった。この言葉が、あたしの心を突き刺した。そこから血が流れ出るように、あたしの涙は溢れた。


涙がゆっくり流れ落ちていって。
歩は、ゆっくりと立ち去った。


あたし達がいるところだけ、スローモーションに感じられた。




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