キミに、愛と思いやりを
夜になり、玄関の音がした。
『花蓮、緑子(みどりこ)! ただいま!』
うちで、ただいま、という男の人は1人しかないない。お母さんのことを緑子、と呼び捨てにする人も、あたしが知る中でも1人しかいない。
『お父さん、おかえり!』
玄関まであたしは、ドタドタと床を踏みならして、お父さんを出迎えた。
『なんだなんだ。花蓮、随分とはしゃいでるなあ』
いつもあたしは、こんな風に出迎えたりしないので、お父さんはちょっとびっくりしている。
『おかえりなさい。花蓮はね……』
お父さんの夜ご飯を準備しているお母さんが、言いかけている。
もう、あたしが報告すべきことなのに。
『お母さん、ダメだよ。あたしが言うんだからね!』
あたしが言うと、はいはい、とお母さんは笑った。
『あたし、高校合格したの!』
『おお! すごいじゃないか! やっぱり俺の娘は、本当によくできた子だ!』
自分のことのように、お父さんは喜んでくれて、あたしが欲しがっていた物をたくさん買ってくれたんだっけ。