キミに、愛と思いやりを

「いやー、父さんも花蓮の入学式に行きたかったよ」



会社のカバンを食卓の椅子の脇に起きながら、お父さんが言った。



「えー、なんで?」



「そりゃあ、可愛い娘が高校に入学できたから、その姿をこの目で見たいに決まってるじゃないか」



お父さんは、可愛い娘だからってそればかりだ。



「いっつもそれじゃん」



「いやいや、可愛いっていうのは、本当だよ。花蓮はなぁ、幼い頃から背が低いからなのか『親指姫みたいだね、可愛いね』って近所の人から言われてたじゃないか」



それは、覚えている。


まだあたしが幼稚園児だった頃、お父さんとお母さんは近所の人から「御宅の娘さん、可愛らしいですね。まるで親指姫のようで」なんて言われていた。


けれど、『可愛らしい』というのは幼い子供だったからに決まっている。



「それは、あたしが小さい子供だったからだよ」



「いや、そんなことないよ。今でも小さくて可愛いイメージは残ってるじゃないか」



背が低くて童顔なあたしは、やっぱり実年齢より幼く見えるらしくて、『親指姫』とか『可愛い』と言われたら、あたしじゃなくてお父さんの方がずっと調子に乗ったような感じなのだ。




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