キミに、愛と思いやりを
「家まで送るね」
涙が乾いたあと、あたしはそう言った。
あたしは、どうしても仙谷くんと話したいという気持ちがあったのだ。
「その、仙谷くん。どうしてあたしの家がここだって分かったの?」
「聞いたんだ。一応、あの公園のベンチに座ってたこと。だったら公園からそう遠くないって思ってたんだよ」
確かに、と思った。
あの公園は中学校まで遠くないし、普通だったら家から遠い公園なんて行かないかも。
「でも、分からなくて。公園の周りをうろうろしてたら、女の人に『何かお困りですか?』って聞かれたから咄嗟に『小園さんのお家は、どこでしょうか』って聞いたら教えてもらったんだ」
「『小園』なんて苗字は、かなり多いって訳じゃないから、ここら辺にいる小園さんは、君ん家だけだと思ったんだ」
「確かに……」
あたしも、同じ名字の人には今まであったことがない。
「小園さんじゃなくて、『佐藤さん』とか、『鈴木さん』とかだったら『花蓮さんという女の子は、いますか』って聞くとこだった」
……花蓮さん。
例え話をしているだけなのに、彼があたしの下の名前を言ってくれたことが、嬉しくて少しくすぐったかった。
「あたしが出ると思わなかった?」
「そうだね。お母さんが出ると思ってたよ」
お互い、思い違いなことがたくさん起きたことが分かり、なぜかおかしくてあたしと仙谷くんは歩きながら笑った。