アンバランスな苦悩
「悪いな」

俺は車に戻ると
後部座席に置いてある鞄に向かって
携帯を投げた

投げた携帯の行方を
スミレが目で追う

「電源、切ったの?」

液晶の画面が真っ暗だったのに
気づいたのか

スミレは携帯をじっと見ていた

「せっかくの時間をつぶされたくないからな」

誰から?
とは聞かないんだな

スミレは

絶対に
聞いてこない

ただ自分の心の中に
疑問を
閉じ込めて
知らないふりをするんだ

聞けばいいのに

聞かれても
嘘の返事がくると

スミレはわかっているのかもしれない

「ホテルはどこがいい?
…って俺も
よく知らないけどさ

近いところはやめておこうな

誰かに見られたら
学校で大問題だ」

「ホテルじゃなくても
いいよ」

小さい声でスミレが言う

「マコと約束してるからな~

初めてはホテルか
俺の部屋か
スミレの部屋でしろって

しかもマコがいるときに
部屋でするなって

だからホテルしかないだろ?」

「瑛ちゃんは
お姉ちゃんとどんな会話してるの?」

スミレが目を大きく開けていた

「ピンからキリまで
いろんな話をするよ」

「意味わかんない」
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