アンバランスな苦悩
自力で
119番をした

でも言葉が出ない

必死に口を動かすが
息が荒くなるだけで

声になることはなかった

マンションの住人の悲鳴により
飛び出してきた
管理人が
俺の携帯を奪って

電話を続けてくれた

痛みで叫びたくなる

刺された箇所は
熱をもち

体の中にある
異物に反応している

中年男は一度
地面に尻もちをつき

それから
走って逃げた

桜さんに
傷つけられたときは

恐怖心で
どうにかなりそうだったけど

今は
何の感情もなかった

ただ
死にたくない

死んだら
スミレを守れなくなる

だから
遠のきそうになる
意識を
必死につなぎ止めていた

ただそれだけ

痛みを
感じている
己の体を
嬉しく思った

痛みがあれば
俺は生きている証拠だ

死ぬわけにはいかない

管理人が返してくれた
携帯が手の中におさまった

血のついた手で
携帯を持って

スミレにメールした

ただ一言

『ごめん』

とだけ……

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