魔法の使い方

　ミーナは「うわ、ヴィオだ」と小声で呟いた後、目の前にいるその人に引きつった笑顔で挨拶する。

「ご機嫌よう、ヴィオ。レディに『げ、いたのかよ』は酷いんじゃないかしら？」

　皮肉を込めて丁寧な言葉で返した。

「おや、レディは出会い頭に『うわ』とは言わねえはずなんだけどなあ」

　ヴィオルドは涼しい顔でさらりと返す。ミーナは「聞こえてたのかよ」とでも言いたげに、目を細めた。


　そこで彼女は自分の状況を思い出す。盗人を追いかけて知らない道に入り込んでしまったのだ。つまり迷子である。しかしここでヴィオルドを頼るのも彼女にとっては癪だった。そのくらいのことはさっきの会話から、誰が見ても明白だろう。

　だがこのままでは帰ることができない。何とかしてユリウスの店にたどり着かなければ。

　そうしてミーナは一つの考えに至った。ヴィオルドを自主的に店へ向かわせるのだ。あとはそれに着いていけば良い。

　まずは彼の足を店に向けるよう上手く口実を作らなければ、と考えを巡らせる。

「どうした？ ぼーっとつっ立って」
「あ、いや、何でもない。ねぇ、うちの店よっていかない？」

　彼女が考え込んでるうちに話しかけられたので、口実を思いつく前に誘ってしまった。しかしここを無言で引き伸ばしても不自然で怪しいだけだ。考える時間を失った今、短時間で不自然かつ怪しくない口実をひねり出さなければ詰む。

「まさかあんたから誘いが来るとはな」
「ほら、私たち出会いが最悪だったじゃない？ だからちゃんと話してわだかまりを無くしましょうよ」

　瞬間的に思いついた精一杯の口実を急いで並べるミーナ。この短い時間では、これ以上無理だ。

「ああ悪くねぇな。そうすればあんたも抵抗なく俺に道案内を頼めるようになるだろうしね」

　ヴィオルドは人を馬鹿にするような笑みを浮かべて爽やかに言い放つ。彼女は渋い顔をするしかできなかった。