魔法の使い方
「あらあら、横暴で野蛮な先輩を持つと大変なのね。おー怖い」

 そのやり取りを見ていたミーナが声を上げた。ここぞとばかりにヴィオルドを非難する。

「そうなんすよ。この人、外面は良いから表向きは好青年で通ってるけどな」
「なんですと! こんな奴が。けど大丈夫です! 私がいつかアイツをギャフンと言わせてやります!」

 ミーナとドルークが盛り上がっている中、ヴィオルドはその様子を見て「何でコイツらもう仲良さげなの?」と一人冷静になっていた。

「さて、ミーナは落ち着いたかな? 今の間にハーブティーを入れてきたよ。ほら、ヴィオルドとドルークの分も」

 目の前に出されたハーブティーを見てドルークは礼を言う。

「あ、俺までありがとうございます」
「ユリウスさん、流石すぎ」

 ミーナはまさかユリウスが全部用意してくれているとは気づかずに驚いている。

「お気遣いどうも」

 ヴィオルドもユリウスには素直な態度をとった。三人の反応を見てユリウスは話を戻そうと穏やかに言葉を発する。

「それじゃあ話の続きを始めようか。その前にミーナとドルークは紹介がまだだったね」
「ミーナ・フレデリー、少し前からここで働いています」

 あくまでファミリーネームは伏せるミーナ。

「俺はドルーク・スローン。この横暴な先輩より歳上だけど、俺の方が立場が弱いです」

 そして始まった行方不明となったレネの詳しい話。しかし新しくわかることはなかった。組織と関連のある可能性も高いが、無関係な可能性もゼロではない。

「組織については俺がもう一度調べる。ドルーク、お前はレネのことを調査しろ」
「わかりました。俺はこの辺りの聞き込みをしてきますよ」

 警備隊の二人が外を見やったのでミーナも釣られて視線を移す。日はすっかり暮れて、酒場へ向かう客や一日の労働の終わりを喜ぶ者達で賑わっている。

 この店はユリウスが夕時に「閉店」の看板を掛けたのであろう。陽気な客の来ない店内は外とは対照的に静かで重い空気が溜まっていた。





 ユリウスとミーナは、店を出る二人を静かに見送った。

 彼女は「私も手伝う」という言葉を喉の奥まで飲み込む。ヴィオルドにあしらわれて妬ましい気分になることは明白だった。今の彼女にはそれに反応する余裕が無いのだ。
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