魔法の使い方
「ミーナは、帰ってしまうのかな」
時は遡ってミーナが店を出た直後。ユリウスがおもむろに口を開いた。そのとき彼が小皿に戻したコーヒーカップは、静かに音を立てる。
「新聞に載れば、家族も魔法が使えることを知るだろうな。魔法が使えない劣等感による家出なら、理由が無くなった今、その可能性は高い」
ヴィオルドが視線を落としながら淡々と答える。その声音はあまりにも冷静でかつ自然で、逆に別の感情を隠しているようだ。
しかし彼の心の内を確かめる術はなく、それは本人しか――もしかしたら本人すら知らないのかもしれない。
状況を理解しきれていないアデライドが声をあげた。どういうことか知りたいのだろう。
「帰るとはどういうことだろうか? 家族とか魔法とか、彼女は何者なんだ?」
アデライドの問いかけにユリウスが答える。
ミーナの本名がミーナ・フレデリー・マグノリアであること、マグノリア家は優秀な魔法使いの家系だということ、彼女が魔法を使えない自分に耐えかねて家出をしたことなど、王都に来た理由を簡潔に説明した。
アデライドは驚きながら聞いている。親しくしていた人が、実はエリートの、それも数少ない魔法使いの家系だったのだ。驚くのも無理はない。
「そんな理由があったのか……。本人から話された訳でもないのに、私が知ってしまって良かったのだろうか。だが確かに家出の理由が無くなるな。レネは何と言うだろうか」
「そういうこと。せっかく看板娘ができたのに、寂しくなるねぇ……」
「まだあいつがそう言った訳じゃない。憂うのはまだ早いんじゃねえか?」
ユリウスとアデライドの言葉をヴィオルドが遮った。まだ答えは聞いていない。その答えはまだミーナしか知らないのだ。