魔法の使い方
「そういうことでしたか。事情を知らず不躾な質問をして申し訳ない。ヴィオルド、もう一度しっかり謝っておきなさい」

 ミーナはいきさつをすっかり話してしまった。さっきのまま不審人物として扱われるのは馬鹿にされるより御免被る。

「俺はあんたが妙な騒ぎを起こさないのであれば何でもいいや。そうだよな、レディ・マグノリア」
「ファミリーネームで呼ばないでくれる? 妙な騒ぎになってほしくないのならね、ヴィオ」
「略称で呼ばれるほど俺達は仲が良かったんだな。あんたがどうしてもと言うのなら、仲良くしてやってもいいんだぜ?」
「何を言ってるのかしら。むしろ私は貴方の名前を言うのに貴重な時間を裂くのが惜しいから、省略しただけよ!」

 このまま続いても埒が明かないと、ユリウスが止めに入る。

「ヴィオルド! いい加減謝りなさい!」
「……俺が悪かった」

 ユリウスに嗜められて、ヴィオルドは仕方なく謝る。

「ミーナ、もしよければウチで働くかい? こんな下町になってしまうけど、悪いところではないよ。それに城下は採用条件が厳しいからね」

 ミーナはユリウスの申し出に、考えを巡らせる。

「ここは城下みたいな華やかさが無いけど、物価は安いし、家賃もそんなにかからない。君が望むなら、ウチの空き部屋を無料で貸そう。もちろんまかないも出すからね」

 このまま断って再び城下を彷徨うか、必要なものが揃ったここで手を打つか。先ほど不採用を何度も言い渡された後の彼女にとって、じっくりと考え込むような条件ではなかった。

「ここで働きたいです!」
「わかりました。では、仕事について詳しい話をしようか。ヴィオルドはそろそろ勤務に戻らなくていいのかい?」

 いつの間にかお昼のピークは過ぎ、店内の人もまばらになっている。

「ああ、行かないとな。ごちそうさん」

 そう言い残すと、ヴィオルドは立ち上がり店を出ていった。
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