香りであなたを癒やします ー 王太子殿下、マッサージはいかがですか?
「ギャッ!突然手を握らないでくださいよ!」
「何を怖がっているんだか。ほら、風呂に入るぞ」
クルミの手を引いて歩き出すが、彼女はピタッと足を止める。
クルミに目を向けると、彼女は幽霊屋敷にでもいるような様子でギュッと目を閉じていた。
「は、裸ってことはないですよね?」
「自分の目で確かめればいい」
フッと微笑してそう口にすれば、クルミは警戒するように指の隙間からそっと俺を見る。
そして、安心したようにホーッと息をついた。
そんなクルミを見るのが楽しくなってきた。
「安心したなら行くぞ。石につまずいて転ぶなよ」
彼女に声をかけると、木の引き戸を開けて岩風呂に向かう。
大人が二十人ほど入れる広さがあり、風呂には薬草が浮かんでいて、湯のお湯は赤くなっている。
クルミが「わあ、まるでザクロみたいに綺麗なお湯!」と歓声をあげた。
「底が滑りやすいから気をつけろ」
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