香りであなたを癒やします ー 王太子殿下、マッサージはいかがですか?
声の方を振り向けば、湯浴み着に身を包んだ姉が楽しげに目を光らせている。
腰まである金髪、その青く宝石のように煌めく瞳。
絶世の美女と皆が姉を褒め称えるが、その容姿は俺と似ているから人が騒ぐほど綺麗だとは思わない。
そんな姉を侍女が髪を振り乱して追ってきた。
「また里帰りですか?時間が有り余ってるんですね」
チクリと嫌味を言うと、姉のセシルはムッとした。
彼女は年に二回子供を連れてパルクレールに帰る。
そして、まだ結婚していない俺のことを弄るのだ。
多分、風呂にやって来たのは偶然ではなく、クルミの顔を拝みに来たのだろう。
「お父様とお母様に孫の顔を見せにきたのよ。あなたも国の世継ぎとしての役目をちゃんと果たしたら……って、今まさに努力しているところかしら?」
チラリと姉がクルミに目を向けると、クルミは助けを求めるように俺を見た。
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