香りであなたを癒やします ー 王太子殿下、マッサージはいかがですか?
……本当、今まで俺の周りにはいなかったタイプの女だな。
知らず笑みが溢れる。
彼女と戯れるのは束の間の休息といったところ。
ベッドに腰掛け、貴族の令嬢が攫われた事件のことを考える。
何もしなければまた被害者が出るだろう。
明日、ヴィクターを呼んでこの件について話し合わなければ。
懐中時計を取り出して時間を確認すると、もう夕の刻になろうとしていた。
「もう少しで夕食か」
一日経つのも早いな。
だが、攫われた女達にとっては、長く感じるはず。
生きているなら一刻も早く救い出してやりたい。
コンコンとノックの音がしてハッとする。
またクルミがやって来たのかと思って、ベッドから立ち上がり、ドアを開ければ意外な人物が立っていた。
「エマ王女?どうされた?」
穏やかに微笑めば、彼女は部屋に入り、顔を赤らめながら手をモジモジさせる。
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