ライラック
先生が読上げる本文を聞いて、眠くなるのは仕方の無いことだと思う。
それに逆らえず、授業が終わるまで寝てしまうのも、仕方の無いことだと思う。
授業が終わるチャイムがなり、生徒のほとんどが席を立つ。
楓もその一人だった。
「おはよう、柊真。そう言えば田中さん、俺らと同じ方向の電車だったんだな。」
「え、そうだったの。全然気づかなかった。」
「ちゃんと見とけよ。あんなに可愛い子なんだぞ。」
確かに可愛いけど。
そんなことを言いそうになったが、それを拾われて茶化されるのは嫌だったから、言わないでおく事にする。
多分楓がそれに気づいたのは、僕と同じように遅刻してきたからだろう。
楓も僕と同じ方向の電車だが、部活の朝練もあり、一本早い電車で通っている。
「あ、そうだ。今日放課後、お前暇?」
楓が尋ねてくる。
僕は自分のスマホを開き、カレンダーを確認する。
4月8日と日付が表示されている下には何も書いていなかった。
「うん、一応暇。」
「お、ならちょっと練習付き合ってくんね?」
楓の言う練習は野球のバッティング。
春の高校野球が終わったと思えば、次は夏の甲子園か。
まぁ、もう僕には関係ない話だけど。
「うん、ちょっとだけなら。」
「よかったー。投げてくれる人見つかんなかったんだよー。」
僕らの高校は野球が強い訳では無い。
だから部活が休みともなれば、部員の殆どは自主練をせずに帰ってしまう、と楓がぼやいていた事があった。
僕は自分の席に座ったまま、窓の外を眺める。
雲一つない、青空。そんな言葉がぴったりな程に晴れていた。
桜はもうほとんど、散ってしまっていた。