ライラック
「よーし、全員いるかぁ。」
気だるそうに担任は点呼を取り始める。
三十数名しかいないこのクラスでも、やはり存在感というものはある。
しかし名簿という教師の特権の武器には、
人気者であろうと、空気ほど存在感がないやつであろうと、全員等しく名前が書かれているらしい。
それに従い、僕の名前も呼ばれるために、返事せざるを得なかった。
「よし、全員いるな。
ホームルームを始める前に、紹介する人がいる。」
まるでそれが起動スイッチであったかのように、教室はざわざわし始める。
僕より後ろの席に座る楓の振り返ると
「だから言っただろう。」
と自慢げな顔をしている。
何をそこまで誇らしげに思っているのか、僕には到底理解が追いつきそうになかったので考えるのはやめておいた。
「よし、はいってこい。」
カラカラと開いた教室の前扉。
「自己紹介しろ。」
「田中 莉奈です。福岡から引っ越してきました。よろしくお願いします。」
そう言ってお辞儀をする、女の子。
シワもよれもない、きっと新しく買ったであろう、僕達と同じ制服を着こなしている。
肩にかかる程度のショートボブの髪が少し開いていた教室の窓から吹き込む風によってなびいていた。