ライラック
その日は、一日中『田中サン』の日だった。
皆がみんな、こぞって
『田中サン!』って呼んでいた。
そりゃそうか。転校生なんて気になるもんなぁ。
僕が聞こえた範囲で、田中サンという人物をまとめる。
これは、決して盗み聞きではない。
聞こえる声量で喋る女子軍が悪いのだ。
田中 莉奈。福岡県出身。
親の転勤に伴い、実家があるこの土地、茨城に引っ越してきたらしい。
下に妹と弟がいる。
今日の朝ごはんは目玉焼きと食パンだったそうだ。
ちなみに僕は醤油派だが、この田中サンは潮派らしい。
仲良くなれない気がしている。
そんなことはどうでもいいのだが。
ホームルームも終わり、必要な諸連絡も終わった午前11時45分を少し回った頃。
どうやら田中サンはクラスの仲良くなった女子メンバーとカラオケに行くことにしたらしい。
僕はそんなにアクティブでもなければ、そもそもの友人が少ない。
そのため大人しく帰ることにした。
どうしようかなぁ。
あ、そう言えば今日漫画の新刊の発売日だったっけ。少し本屋にでも寄ってから帰るとするか。
ぼくは相変わらずの影の薄さを発揮し、
誰とも言葉を交わすことなく、
教室と学校をあとにし、
近所の本屋へ向かった。