ライラック


『今すぐ君に伝えたい
僕らには 歌しかないけれど
それでも君に 届いてほしい
奏でる僕らの恋ノウタ(ラブソング)』

センチメンタルな雰囲気を醸し出すギターの音色。
ゆっくり、しっとりとしている曲調。
それにに合わせて歌われる、ヴォーカルの透き通った声。

顔出しをしていない、正体ほぼ不明の女性4人組バンド、ぴゅあ☆らぶ!。
そのバンドの象徴とも言える、CDのジャケット写真に毎回大きく描かれる、カーネーション。
僕自身、そこまで詳しくはないのだが、巷の噂では、カーネーションの花言葉である『純粋な愛』から名前をつけたとか、なんとか。


音楽のことを考え出してみると、読んでいた漫画の話が一切頭に入らない。
このキャラクター、誰だっけ。
あれ、なんでここで悪役がやられてるんだ?

もういい。明日もう一度読むことにする。

読んでいる途中の漫画を閉じて、
テーブルの上に置き、部屋の電気を消す。

なんか今日も色々あったなぁ。
とりわけ僕が何かしたってわけじゃないけど。

僕はふと、やってきたばかりの転校生、田中 莉奈のことを思い出す。

この時期、もう僕達は進学や就職の進路を決めていかなきゃならない頃。
田中サンはどうするんだろ。
他人の心配する前に僕もそろそろ決めなきゃなぁ。

優しい音色に包まれた音を聞きながら、
僕は重りをつけられたように重くなった瞼をゆっくり閉じて、
綿毛のようにふわふわと漂う睡魔に吸い寄せられるかのように、
深い眠りについた。

< 7 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop