ただ愛されたいだけなのに
こんなんじゃ何も進歩しない。プライベートなことを話さないかぎり、先生には近づけない。でもこれは、宇宙規模で大きな難題。わたしのプライベートはいくらでも話せたとしても、先生のプライベートを聞かなくちゃ意味がない。もちろん、先生から話してくれなきゃね。だってわたしから聞いたところで、「あ、そうなんですか」「はい」としかならない。だって、先生はわたしを——悔しいけど——生徒でしか見てないんだもん。もしもわたしが先生の意中の人なら「はい」で終わらせないで、先生が質問をする番だから。
だけどあいにく、そこまで近づけてないわたしたちは、いつまでも先生と生徒のまま。あっちからしたら、わたしは無職の惨めな年下女ってだけ。
わたしってそんなに魅力がないのかなぁ? 正紀にまであんな言い方されて、わたしのことを好きになってくれる人なんて、もうこの世に存在しないのかも。
「だからさぁ、夢さん……遊ぼうよ」
電話の相手がすがるような声をだした。
「え? うーん……今お金ないもん」
正紀とよりを戻してから一週間以上。わたしは正紀が連絡をしてこないことに、ソワソワしたりしなかった。それどころか、正紀のことを考える時間が減り、嫉妬や不安が消えてすっきりした気分を味わっている。
「俺が出すって。年上なんだから」
「そんなのダメ。わたしが嫌だもん」
「えー……」
勇太とは一晩メッセージのやり取りをして、翌日すぐに電話をした。顔見知りでもないし、写真——しかも詐欺ったプリクラ——しか見たことない相手、そんな勇太が遊びたいとせがむ。
「映画見たりさ。映画好きって言ってたじゃん」
「映画は好きだけど、お金がないの」
正紀以外の男と連絡は取り合っても、遊ぶことにはまだ少し抵抗があるわたしは、早くも電話を切りたくなってきた。相手は顔を知ってると言っても、実物より数倍美化されたプリクラのわたし。それに、男と二人きりで遊ぶなんて……。