ただ愛されたいだけなのに


「あー、まぁそうですね。もう慣れたけど。今帰りですか?」
「はい」
 わたしはイケメンの後ろの美容室をチラッと見た。明かりがついている。
「まだ仕事なんですね」
「そう、仕事中」
 イケメンがにやりと笑った。
「仕事中に見たりするんですよ。夕方は必ず見るかな。いつもオシャレだなぁと思ってました」

「えーっ⁉︎ そんなことないですよ。美容師さんには負けます」
 わたしは手を大げさに振った。ニヤニヤする口を見られないために。
「いやいや。美容師だけど俺はオシャレじゃないから」
「そんなこと——」
「あ」
 とつぜん、イケメンが腕を回して、わたしの体を引き寄せた。なんなの⁉︎ そんな、早すぎる——。
「人が来る。学生の帰宅時間かな」
 あ、そういうこと。
「明日もここを通る?」
「はい。平日が学校なので。美容師は月曜しか休みないんですよね」
「そうだよ。よく知ってるね。第三日曜日も休みだけど。そういえば、いくつですか?」
 さっきよりも距離が縮んで、彼の前髪が夕陽に照らされて、ドラマティック。眩しそうに片目を細めているところも、よりかっこよく見える。


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