ただ愛されたいだけなのに
一向に返事の内容が決まらなくて、だんだん気がそれてしまった。なにも考えずに、ボーッとしながら亀田さんが先生を呼ぶ回数を数えた。これで四度目。もしかして、この二人はすでにできちゃってるんじゃないのかな。うんと近づきあって、あれじゃあお互いの吐く息を吸いこんでるわ。
「うーん……これ、全然わかんない」と猫なで声の亀田さん。
「大丈夫ですよ。自信を持って」と先生。
ええ、自信を持って。あんたたちはお互い似た者同士よ。ここは勉学するところだっていうのに、鼻の下を伸ばすために来てるんだからね。
「斎藤さん」
訓練が終わるまで残り一週間というところで席替えをして、隣の席になった福留さんがニヤニヤしながら合図をした。
「気づいてる?」
「はい。もう、嫌ってくらいに」
わたしもニヤニヤ笑った。
「どっから声出してるんですかね。そんなに分からないなら、資格取らないで我慢してろって」
福留さんは豪快に笑うと、慌てて口を塞いだ。
「先生もまんざらじゃないですよね」
「うんうん! それわたしも思ってた。なんか、優しいよね」
福留さんとは話したことなかったけれど、けっこう話しやすい。
あの二人のやり取りに気づいてる人は他にもいたんだ。わたし、あんな肉まん鼻の女を気に入るような、たいしてかっこ良くもない男に浮かれてたなんて信じらんない。ようやくわたしにも見る目が備わったってわけだ。