ただ愛されたいだけなのに
—料理人の笑顔—
わたしは時々想像する。スケッチブックの真ん中に描かれたような、端が曖昧な場面。地面はレンガで、外国の商店街の一角のような、ウィンドウガラスの向こうで光る物体。その何かは、その時憧れているものや欲しいもので変わる。左側を白ひげの老人が、俯き加減に歩いていて、わたしは赤色のマフラーをしている——その自分の後ろ姿を見る。
午前十一時二十二分……メッセージはゼロ。
いつもなら、返事をしていなくてもメッセージを送りつけてくるくせに、何の音沙汰もなしでわたしは朝からイライラしている。
ありがたいことに、今日は田端の野郎が休み。わたしを必要以上に監視する同僚はいない。
「ペペロンチーノでーす」
立ち振る舞いや言葉遣いは、最初の一週間だけしっかりすればいいと、お母さんが言ってた。
「ご注文は以上でしょーか」
なんなの? という目つきで、眼鏡の真面目そうな女が見上げてきた。ここの常連らしい。ふんっ、髪の毛の一本でも混ぜておけばよかった。