足立古書堂 謎目録
同情するような声音で、すんなりと皮肉を放ちやがる。

「いや……一本は、前に忘れていって……」

なんとか誤魔化そうとする彼だが、足立には通用しない。

「そっちの紺色の傘は、兎田くんのものだよ」

ぎくり、と彼は肩を強ばらせた。

兎田という名前を聞いて、一瞬顔が歪んだ。

「……兎田って人の傘は知らないけど、これは俺のだよ」

あくまでしらを切ろうとする彼にすたすたと近づいて、足立は紺色の傘を取り上げる。
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