この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 今までお母さんの影すらなかったんだけど。私なんで気付かなかったの?

 ちょっとは気になるはずの違和感が、周囲に溶け込むようにして隠れてる。私は当たり前のように違和感を、違和感だと捉えられない。

 ……アーベルくんのお母さんについて聞いてもいいんだろうか?いや、藪から蛇が出てくるかもしれない。やっぱり止めとこ……。

 視線を感じて、目を開ける。
 ドアップのデブ猫の顔が、私の視界の全てを使って存在していた。


「ローちゃん。ローちゃんふわふわだあ」


 動物臭さのないローちゃんのふわふわの毛を、両手で触り倒す。若干嫌そうな表情をしたけれど、遠慮なくもふもふさせてもらった。

 アーベルくんの次に癒される。

 そんな事をやっていると、また吐き気が襲ってきて、私は無理矢理目をつむった。
 ……これ、いつまで続くんだろ……?
 五日目でギブアップ。私は頭の中で白旗を上げた。

 悪阻は個人差あるって聞いてるけど、私はもう辛すぎて泣きそうだ。終わりの見えない荒れた船旅の途中みたい。
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