この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「…………あれ?」


 いつまで経ってもやってこない痛みに恐る恐る薄く目を開けると、相変わらず暴風は収まっていないけれど、私達を避けて吹き荒れている。

 壁もボロボロ。ドアはどこかへ飛んでいっている。

 ローちゃんの姿はどこにも見えない。

 それでも、私達のいる天蓋付きのベッドの周りだけ、何事も無かったかのようにそのままだった。


「――見つけたわ」


 甘ったるい女の子の声がする。ちょっと媚びを売るような、そんな声。
 黒いローブを深く被ったその人は、とても小柄だった。形の良い口元だけが覗く。

 ゆっくりと割れた窓から小さな硝子の散らばった床へ降り立つ。彼女の靴からジャリ、と硝子を踏み潰す音がする。


「久しぶりだわ、アリサ。わたくしの事を勿論覚えているわよね。わたくし、ずっと会いたかったの」


 ――ずっと、ずっと会いたかったの。
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