この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 どちら様ですか――?なんて聞ける雰囲気ではなかった。会いたかった、と同じ声が何度も響く。
 私が唖然としているうちに、矢継ぎ早に彼女が言うもんだから、聞くタイミングを逃した。

 どうやら私と彼女は普通に知り合いらしい。


「単刀直入に言うわ。わたくし達、アリサを助けに来たの。遅くなってごめんなさい。苦労したわよね?」

 ――かわいそうだわ……。本当にごめんなさい。



「た、助けに来た?」


 展開についていけなさすぎて、オウム返しに聞き返すのがやっとだった。二重に彼女の言葉が響く。
 口元はその言葉の形に動いていないのに、何故か彼女の声が聞こえた。

 全然知らない彼女は、私のいるベッドまで一気に距離を詰める。
 ふんわりと花の香りがした。多分薔薇系の香水だと思う。

 真っ白で細すぎる手が私の腕を労わるように撫でる。


「ええ。助けに来たの。……こんなに痩せてやつれてしまって……、もう少し早く来れれば良かったのだけれど……」

 ――顔色が悪いわ……。やはりあの男の手から、助けなければ。何としてでも。



 それ多分悪阻のせいだと思います。
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