この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ルーカスにはまるでこの状況が、牢獄のような鳥籠にアリサを閉じ込めて、世間から隔絶しているように見えた。


「精神属性。傾国の美女のほとんどが持つ能力……」

「アリサ、とっても可哀想だったわ……。やせ細って、酷くやつれていたの。顔色も悪かったわ!今にも消えてしまいそうな位よ……」

「そうか……」


 いつもは穏やかな表情しか見せないルーカスだったが、厳しい顔つきになる。やはり、大国の王太子妃という身分も・負担になっているのだろう。

 現にアリサは外にあまり出てこない。結婚式を含めて片手で数えられる位しか表に出てきていない。

 アーベルを身ごもっている時は、体調が思わしくない。生まれた後は、産後の肥立ちが良くない。

 ローデリヒの意向か、アリサのワガママか――?そんな不躾な憶測すらある。

 だが、実際に三年目の大国の王太子妃にはあるまじき公務の少なさだった。後継を産むという一大の仕事を成していても。


(ローデリヒ・アロイス・キルシュライトを僕は絶対に許さない。アリサ、君を必ず助けに行くから)


 決意を新たにし、ルーカスはいつもの優しげな表情を意識的に心掛けた。きっとこの気持ちはアリサに届いているはず。
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