この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「そうそう!子供もいたの。たぶんあの子がアーベル殿下ね。アリサは優しいから、きっと可愛がっていると思うの」

「流石に子供を連れ帰る事は出来ない。アーベル殿下はこの王国の跡継ぎだからね。いくらアリサが可愛がっていたとしても……僕はアリサを辛い環境から逃がす事を優先させる」


 ええ、とティーナは異論なく頷いた。アーベルの事に対して罪悪感を覚えたような、沈痛な微笑みと共に。

 ティーナとて、ここで引き下がる訳にはいかなかった。

 念入りにローデリヒ達のことについて調べて、アリサの現在を追い続けて、アルヴォネンの腐った貴族達を再起不能にまで追いやった。
 時間も手間も掛かったけど、全部アリサという友・人・の為に、ルーカスと二人三脚で頑張ってきたのだ。

 共犯者はルーカスの一人だけだった。でも、これ以上にない共犯者だった。
 自分の一生を後悔と罪悪感と無力で終えたくはなかったから、ティーナとルーカスは手を組んで立ち上がったのである。

 全ては大事な友人の為に。


「でもまるでこれは、『傾国の美女に入れ込む王太子』……みたいだね」


 遠眼鏡から目を離して、ルーカスはポツリと呟く。
 その言葉を唯一聞いていたティーナは、小さな手のひらを震える程にキツく握り締めた。
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