この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アリサのモルガナイトに似た色の瞳が零れ落ちんばかりに、見開かれる。息を飲んだ彼女の様子に、その場のみんなが訝しげな表情を浮かべた。


「どうしたんだい?」


 ルーカスも怪訝そうにアリサの顔を覗き込む。アリサはクルリ、と振り返って段々小さくなっていく男の人の後ろ姿を、自失したように見送っていた。


「……今、あの人、『国王なんて死んでしまえ』、って言ってなかった?」


 顔からは血の気が引き、唇は少し震えている。ティーナは怯えている様子のアリサの腕を、安心させるようにギュッと握った。


「え?あの人?さっきの人だよね?僕は何か言っているようには聞こえなかったんだけど……、父上はどうでした?」

「私も何も聞こえなかったな。第一、私に『死んでしまえ』は不敬だろう?」


 そうだ。国を統べる国王相手に『死んでしまえ』と言うのは、命取りだった。誰もそんな愚行は犯さない。

 強いて挙げるとしたら、国王に一矢報いたい革命家だけだ。


「ティーナは何か聞いたかい?」

「わたくしは……何も聞いていないわ。でも……」
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