この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 アリサはまだ衝撃から立ち直れていないようだった。元々白い肌を更に白くして、彼女は震える手のひらをギュッと握り込む。


「アリサ、今日は休んだ方がいい。迎えを呼ぶよ」


 ルーカスが宥めるようにアリサの背中をさする。ティーナも真似をして、腕を一生懸命撫でさすった。

 アリサが少しでも回復するように、と。

 その後すぐ迎えが来て、アリサは屋敷へと帰って行った。次に会った彼女はすっかり元気になっていて、ティーナは内心安堵の息をついたのだ。

 でもこれは、アリサにとっての地獄の始まりに過ぎなかった。

 アリサが言っていた王城で何度か見た男性は、その後煙のように跡形もなく消えてしまった。
 今日こんにちに至るまで、ティーナはあれからその姿を見ていない。

 ――そして同様の事は、一度や二度の話ではなくなっていったのである。
< 149 / 654 >

この作品をシェア

pagetop