この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 中々話し出さないローデリヒさんに焦れて、私は口を開いた。


「私の記憶の事なんですけど」

「貴女の能力の事だが」


 思いっきり被った。
 お互い気まずそうに顔を見合わせる。ローデリヒさんの話がとても気になったので、先にそちらについて教えてもらう事にした。


「貴女の魔法の属性が精神属性というのは知っているだろう?」

「はい。ヴァーレリーちゃんに教えてもらって……」

「精神属性は人の精神に干渉出来る属性だ。貴女も例外なく、他人の精神に干渉出来る――と、嫁いできた時に貴女は言っていた」


 渋い表情を浮かべたローデリヒさん。
 本当は過去の事はあまり伝えたくはないのだが、と前置きをして重々しく口を開く。


「精神属性を持たない私には、どういった感覚なのかは分からない。ただ貴女には何もしなくても、人の強い感情が伝わってくると話していた」

「人の強い感情?人の心が読めるみたいな感じですか?」

「読心術……の一種なのだろうと思う。私も以前聞いてみたのだが、人の強い感情しか分からないのだと。

 例えば誰かに対して強い怒りが一瞬芽生えたとする。しかし、その怒りは永続的なものではなく、段々と薄らいでいくものだった。その場合、一瞬芽生えた強い怒りの感情のみが読み取れて、薄らいでいく怒りの感情は読めない。
 つまり、感情の移り変わりの部分と、ささやかな怒りの感情には干渉出来ないと言っていた」
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