この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 その言葉にイーヴォは目を丸くした。乳兄弟のイーヴォから見たローデリヒは、幼い頃より実直な人間だった。
 少々頭の硬い所はあるが、基本的には真面目をそのまま体現したかのような性格で、過去を遡っても曖昧な事は言わないタイプ。

 これは、相当離縁について考えたくないのだろう、と長年の付き合いのイーヴォは推察する。考えたくないのならば、提案しなければいいのに……とは思うが。


「承知致しました。では、パーティー会場の警備を見直して参ります」


 何も言わずに一礼したヴァーレリー続いて、慌ててイーヴォは頭を下げた。
 そのまま執務室から退出した二人だったが、人がいないと確認したヴァーレリーは、こっそりとイーヴォに耳うちをする。


「イーヴォはこの件についてどう思う?」

「まあ……、北への遠征から間を置かずに大変な案件が出てきたなあって感じだけど?」


 頭の後ろで手を組んだイーヴォは、一見能天気そうに見えた。内心、自らの主夫妻の関係が中々拗れているなと冷や冷やしているが、ヴァーレリーには伝わらない。


「そう?私はまた奥方様が殿下に対して我儘言っているなと思ったよ」

「我儘……まあ、そうとも取れるけどさ……」


 呆れたようにエメラルド色の瞳を細めたイーヴォに、ヴァーレリーは険しい顔で言葉を重ねる。
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