この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「やっぱりあの奥方様は殿下に迷惑を掛けてばかりだ。子供を産むという王太子妃の一番の仕事はしたけれど、その他の公務は全くせずに、ただただ屋敷の中に引きこもっているだけ。王太子妃としてどうなの?殿下に守られてぬくぬくして――」

「そこまでだ。ヴァーレリー」


 ヴァーレリーの言葉をイーヴォは遮る。その声は硬い。パッと見イーヴォはふざけたような人間に見えるが、超えてはいけないラインを見極めるのは上手かった。


「ヴァーレリー、お前は何故そう奥方様に突っかかるんだ?主君の妻の文句を言える程、偉い人間なのか?」


 イーヴォの言葉にヴァーレリーは息を飲む。イーヴォは体格が良い。小柄なヴァーレリーにとって、至近距離から見たイーヴォはとても迫力があった。


「……私は自分の事を偉い人間とは思っていない。けれど、努力すらしない人間を私は許せない」


 負けじとイーヴォを見上げて、ヴァーレリーは突っかかる。


「そんなお綺麗な事を言える所が、まだまだ甘いんだよ。なぁ、お嬢さん?」


 ニヤリ、と嫌味ったらしくイーヴォは微笑んだ。その声音は、完全にヴァーレリーの事をからかっているものだった。
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