この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ハーゼナイ侯爵家の末娘として生まれたヴァーレリーは、誰からもちやほやされて育ってきた。
 確実にこれから出世するであろう、伯爵家のイーヴォとの婚約は幼いうちに決まっていた。このままであれば、彼女はずっとちやほやされ続けて一生を終えたであろう。

 だが、彼女が選んだのは文官になるという茨の道だった。

 その夢を叶える為に、ヴァーレリーが努力をし続けてきたのをイーヴォは知っている。
 知っているからこそ、彼女の父親であるハーゼナイ侯爵の説得をローデリヒに頼み、共にしたのだ。逆にローデリヒとイーヴォが説得したからこそ、ヴァーレリーは今の地位にいれる。


「奥方様が王太子妃としてどうか素質を問われるなら、ヴァーレリー、お前は〝貴族令嬢〟としてどうなんだ?」


 一般的に貴族令嬢は成人してすぐに嫁入りをする。早いうちに跡継ぎを産む為だ。そして、家に入って家業などの手伝いや、社交界で繋がりを広めたりする。

 一部の例外は、魔法がとても使える令嬢だけ。国からスカウトされて、仕事をする事になる。ただし、国からスカウトが来るまでの令嬢はかなり少ない。


「……なに?イーヴォまで〝女のくせに〟だなんて言うの?」


 だから、ヴァーレリーのような文官を目指す令嬢は珍しかった。
 おまけに次代の国王であるローデリヒの覚えめでたい。本人も優秀だ。色々な所からやっかみがあるのは当然だった。
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