この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「いや、そうは言ってねぇよ。ヴァーレリーは頑張っていると思う。……だが、ヴァーレリーが言う奥方様としての仕事は、ヴァーレリーにとっての貴族令嬢の仕事と同じじゃねぇの?」


 ヴァーレリーは無意識に手のひらを握り締めた。ヴァーレリー自身でも、指先が白くなるほど力を込めている事に気付かない。

 彼女は何も言えなかった。

 陰で囁かれている〝女のくせに〟、という呪いのような言葉を払拭したくて、ヴァーレリーはがむしゃらに努力に努力を重ねた。
 けれど、それは同時に一般的な貴族令嬢としての役割を果たしていない事になる。

 イーヴォが許してくれているだけで、本来ならば今頃はイーヴォの元に嫁いでいてもおかしくはない。
 貴族夫人らしく、イーヴォの家の家業の手伝いと、社交界へのコネクション作りに励んでいる時期だった。


「ヴァーレリーの努力を俺は知ってる。否定するつもりもねぇよ。……ただ、お前が奥方様に対して思ってる気持ちの中に、嫉妬が入ってるんじゃねぇの?」

「そんな……ことは……」


 ヴァーレリーの声は掠れていた。勢いを無くした彼女の言葉は尻すぼみになる。


「この王城でヴァーレリーが自分の地位を確立するのに苦労してるのは分かる。だから、結婚しただけで王城内で揺らがない地位を築いた奥方様が許せないだけじゃねぇの?」
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