この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
ヴァーレリーはもう何も言わなかった。
言えなかった。
腹に一物抱えた人間がウロウロしている王城で、ヴァーレリーは真面目にこの王国に貢献したいが為にひたすら努力を続けてきた。
だからこそ、表舞台に顔を見せない王太子妃の事が許せなかった。実直で堅物のローデリヒに相応しくないとさえ思っていた。
それが傲慢な考えである事にも気付かずに。
「ヴァーレリー?」
幾分か軽い調子を取り戻したイーヴォは怪訝な表情を浮かべた。黙り込んでしまったヴァーレリーの顔を覗き込む。
ヴァーレリーはそんなイーヴォにギッとひと睨みする。ふっくらとした唇は噛み締めている為か、歪んでいた。踵を返して一人廊下をカツカツと靴音を鳴らしながら、自分の仕事へ戻って行く。
「……反抗期かな?」
その後ろ姿を見送ったイーヴォは、赤髪を乱暴にかきあげる。首を捻りながら、彼も自身の持ち場へと戻る為に気持ちを切り替えた。
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言えなかった。
腹に一物抱えた人間がウロウロしている王城で、ヴァーレリーは真面目にこの王国に貢献したいが為にひたすら努力を続けてきた。
だからこそ、表舞台に顔を見せない王太子妃の事が許せなかった。実直で堅物のローデリヒに相応しくないとさえ思っていた。
それが傲慢な考えである事にも気付かずに。
「ヴァーレリー?」
幾分か軽い調子を取り戻したイーヴォは怪訝な表情を浮かべた。黙り込んでしまったヴァーレリーの顔を覗き込む。
ヴァーレリーはそんなイーヴォにギッとひと睨みする。ふっくらとした唇は噛み締めている為か、歪んでいた。踵を返して一人廊下をカツカツと靴音を鳴らしながら、自分の仕事へ戻って行く。
「……反抗期かな?」
その後ろ姿を見送ったイーヴォは、赤髪を乱暴にかきあげる。首を捻りながら、彼も自身の持ち場へと戻る為に気持ちを切り替えた。
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